『新解さんの謎』赤瀬川原平

辞書を「読んだ」ことはありますか。

僕は無いです。

だって、辞書って「引く」ものだから。国語の先生が「国語辞典をもってこい」とか命令してきて、「そんなのググれば一発じゃん!」って思っても空気を読んで渋々、国語辞典を入れてずっしり重たくなった通学カバンを背負って登校するハメになるもの。それが辞書だ。

クソだね。辞書って。

ところが。

辞書の中でも新明解国語辞典というものは、他と比べて「何か」が違うらしい。

「何か」、とは何か。

それを教えてくれるのが、辞書を「読んだ」赤瀬川原平さんだ。

赤瀬川さんは芸術家で、千円札を忠実に再現した芸術作品を発表して通貨及証券模造取締法違反(つまり、偽札)で牢屋に入れられたりするような人である。

「何か」わからないものを教えてくれる先生として、これだけ信頼に足る人がいるだろうか。

 

さて、赤瀬川さんが新明解国語辞典の「何か」を教えてくれるのは、『新解さんの謎』という本。

どうやら、その「何か」というのは「新解さん」という人(?)のことらしい。 

新解さんは、桜の花びらの落下速度を教えてくれたり、男女の中身が入れ替わってなにやら破廉恥なことが起きたりするアニメ映画(観てないからわからない)を作る人のことではない。

新解さんとは、新明解国語辞典を書いている人のことを指しているのだ。

そもそも、辞書って一人で書くものなのか、と僕は思った。大人数で何回も推敲して、教科書的な文章を構築していくものではないのか。

でもやっぱり、赤瀬川さんが言うように、新解さんはいるらしい。新明解国語辞典の向こう側に。

 

どうぶつ【動物】

 【――園】生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設。 ……

 

これは私たちが想像する辞書のことばとは、たしかに違う。向こう側から、新解さんというおじさん(??)のじっとりした息遣いが漂ってくることばだ。

 

そして、新解さんのことばを解釈する赤瀬川さんのことばが、新解さんの輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。

 

たらばがに【〈鱈場〈蟹】 北方の海でたくさんとれる、カニによく似た節足動物。大形で肉がおいしく、缶詰にする。

 

 缶詰にしない鱈場蟹だっているんじゃないかと思うが、こう断言しているのを見ると、ひょっとしてこれは鱈場蟹の生態系に組み込まれているのだろうか。ブリなどは成長の過程でイナダとかワラサとか名前が変っていって最後にブリとなる。鱈場蟹もそうやって最後に「缶詰」となるみたいだ。

 

ということで、最後までニヤニヤして読んだのでした。あとは『新解さんの謎』を手に入れて読んで下さい。

 

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)